地域とともにある学校づくり
~未来を創り出す子どもたちの成長のために、社会総掛かりでの教育の実現を目指しましょう~

宇城教育事務所 子どもの夢をはぐくむ学校・家庭・地域連携実践交流会
宇城総合庁舎



 皆さん、こんにちは。ご紹介いただきました地域の寺子屋プランナー県央地区担当の中川です。よろしくお願いします。
 私は、上益城、宇城、天草教育事務所管内を担当しています。小・中学校や教育委員会を訪問し、校長先生や教頭先生、そして教育長や生涯学習課の皆さんと「地域とともにある学校づくり」等について話し合っています。先生方にお目にかかるのは今日が初めてだと思います。昨年は、砥用小学校3年生のそろばん学習の授業づくり、そしてそろばん学習のお手伝いに行きました。今年も4年生の木版画の学習指導のお手伝いに行く予定でしたが、日程調整がうまくいかずお手伝いはできませんでした。先生方の学校で、3年生のそろばん学習等でお手伝いが必要なことがありましたら声をかけてください。お手伝いをしたいと思っています。

 ところで、「今、何故、地域とともにある学校づくり」なのでしょうか。
 先生方は既にご存じのように、日本は平成20年をピークに人口減少社会となりました。現在の日本の総人口を調べてみました。今年、国勢調査が行われましたので正確な数字はもうしばらくすると発表になるでしょうが、今年11月1日現在の推定総人口は、約1億2689万人とありました。驚きましたのは、昨年の同日から約19万人減少したとあったことです。昨年の宇城2市1町と上益城5町の総人口が約20万人です。つまり、1年間で、宇城と上益城のすべての人がいなくなってしまったことになるのです。人口減少社会は驚くべき速さで進行しているように思います。ある統計によりますと、日本の人口は2050年には約9700万人、2100年には5000万人という推計が出ています。持続可能な日本を創りあげていくため、政治、経済、産業、福祉、教育などあらゆる分野で地域課題に取り組むことが求められています。これが地方創生だと思います。人口減少が進行している中で、人口は都市に集中し、地方の過疎化が進んでいます。人々の価値観やライフスタイルも多様化しています。家族形態も変化しています。このようなことから、地域社会のつながりや支え合い、きずなが薄くなっています。「地域の学校」「地域の子は地域で育てる」の考え方が次第に失われてきたことが指摘されています。このことは地方創生の大きな課題です。
 益城町は、24年度学校支援地域本部優良団体として文部科学大臣表彰を受けました。私はその授賞式に出席しました。そこに、岩手県釜石小学校の校長先生もお出でていました。受賞者を代表して釜石小学校の校長先生がお礼の挨拶をされました。東北大震災時の「釜石の奇跡」について話されました。釜石では、「奇跡」とは言わずに「出来事」と言っているそうです。釜石小学校では、登下校時などに津波がくることを想定して、先生と子ども、地域住民、保護者などが、一緒に歩きながら、安全な場所を確認するなど日頃から「逃げる」ことを学んできたそうです。震災の日、子どもたちは自分一人が逃げるだけではなく、小さい子やお年寄りなどに「津波が来るよ。逃げないと危険」と声かけ、必死で連れ出したそうです。そして、ほとんどの人が命を落とすことなく無事に避難ができたと言うことでした。校長先生は、「釜石の奇跡」と報道されたが、日頃から学校と地域が一体となって教育活動を展開しているから当たり前のことだったと話されました。また、仙台市教育委員会で指導主事をしておられた方から、「学校支援地域本部事業など日頃から地域と一体となった教育を展開している学校の避難所では、いち早く避難者の自治組織が立ち上がったが、そうではない学校では、自治組織の立ち上げが遅れた」と言うことを聞きました。こうした地域と連携した日頃の取組が、地域の危機に直面したとき、力を発揮するのですね。このようなことからも「地域とともにある学校」は教育の分野から地方創生を成し遂げる手段だと私は考えています。

 学校の状況は、どうでしょう?
 いじめ・不登校児童生徒への対応をはじめ学校の教育課題は複雑化・困難化しています。先生だけで対応することが、質的な面でも量的な面でも難しくなってきています。上天草市の龍ヶ岳小中学校は、昨年、熊本版コミュニティ・スクールを昨年立ち上げられました。学校の課題を共有し、協働して解決していくために、「安心・安全部会」、「学習支援部会」、「いじめ・不登校部会」の3つの部会が組織してあります。課題解決を図るために「いじめ・不登校」部会を組織している学校があることを初めて知りました。校長先生は、現在、学校がいじめ・不登校で課題があるわけではなく未然防止のために設けた部会だが、部会で話し合いをする中で、地域で変化が現れたとおっしゃいます。これまでは遅れて登校する子どもに対して、「今頃学校に行くなんて。もっと早く登校せんか」とマイナスイメージで見ていた人たちが、「今日は遅かね。身体の具合でも悪かつかい?」と支援するような声かけが出始めているとおっしゃいます。これなど学校が地域と一体となって課題解決に向けた取り組み、「地域の子は地域で育てる」取り組みだと思います。
 また、最近「アクティブ・ラーニング」という言葉をよく耳にします。私は詳しくは知りませんが、「子ども自ら課題を発見し、解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習」のことでしょう。学校で基礎的・基本的なことを学んで、その知識や技能を活用して例えば、地域の人と一緒に、地域を活かし、地域を学ぶことは、まさにアクティブ・ラーニングだと思います。これは学校と地域が一体となった学習形態ではないでしょうか。
 さらに、平成30年度に改訂される予定の学習指導要領の改訂の論点では「社会に開かれた教育課程」という考えが示されました。これは、教育課程の実施に当たって、地域の人的・物的資源を活用したり、放課後や土曜日等を活用して社会教育との連携を図ったりして、その目指すところを社会と共有・連携しながら実現させることを言っているものと思います。また、「チームとしての学校・教職員の在り方に関する作業部会」においては、学校は、複雑化・困難化した課題に対応し、子どもたちに求められる力を身に付けさせるため、教職員が心理や福祉などの専門家や関係機関、地域と連携し、チームとして課題解決に取り組むことが提唱されました。地域の大人を応援者・支援者と捉えるのではなく、先生と地域の大人とがチームを組んで学習活動を展開しましょうという考え方だと私は捉えています。地域の大人とのチームティーチングです。さらに、学校と地域の連携を推進するため、地域との連携の推進を担当する教職員を仮称ですが「地域連携担当教職員」として法令上明確化することも検討されています。このように国の動きは、「地域とともにある学校づくり」を加速しています。

 そこで、地域とともにある学校づくりで期待される効果を考えてみます。
 先ず、校長先生の学校運営の基本方針を地域の人々や保護者が理解して協力されますので、校長先生は安心して学校運営ができます。私は平成9年、御船町の七滝小学校に校長として赴任したとき、「教育懇談会」と名付けた地域と学校とが教育課題について話し合う会を開いていました。区長、民生児童委員、公民館長、駐在所員、郵便局長、老人会・婦人会長、議員などの皆さんに集まっていただき、七滝小学校の教育課題を話し合っていました。あるとき、一人の区長さんが学校を責めるような口調で、「近頃子どもたちはいっちょんあいさつばせん。学校ではどぎゃんした指導ばしよるですか?」と言われました。それを受けて一人の区長さんが、「あたは何ば言いよるな。そぎゃんした問題があるけんそるば解決するにはどぎゃんしたらよかかを話し合うために校長先生がこの会を開きなはったつたい。今からそんこつば皆で話し合おうじゃなかな」とおっしゃいました。質問した区長さんは、「そぎゃんな。学校ばかりに任すっとじゃなくて地区でできるこつは地区で教えていこていうこつな」とおっしゃり、地域にあいさつ運動が広まりました。
 次に、先生方にとっては、多様な授業づくりが可能になります。地域の大人と学校とが知識と経験、物や施設を提供し合って教育活動を行うことで、地域学習が深まります。「風土」という言葉がありますが、私は先生方を「風の人」、地域の人を「土の人」と表現することがあります。先生方は原則7年間しか同一校に勤務することはできません。数年経ったら新たな学校に転勤されます。新たな学校では地域のことは不案内です。ところが地域の方は、そこに長年住んでいますので地域のことをよく知っています。私は、熊本市の「花立」に住んでいます。花立・桜木地区に移り住んでいる人や桜木小学校の先生方が、「この地域には、お地蔵さんが一つもない。お寺もない。お宮は地域の外れにある。おかしな所だ」とよく言われます。そのはずです。人が住む集落ではなかったのですから。この地域は、昭和30年代までは、から芋畑やスイカ畑でした。そこを宅地造成して新興住宅地になったのです。畑地には、お地蔵さんやお寺はありません。また、桜木小学校の玄関前に大きな栴檀の木がありました。畑地であった頃、農家の人は昼の弁当をこの栴檀の木の下で食べていたのです。農家の人にとって思い入れのある栴檀の木を伐採するのは惜しいとの思いから残しておいたのです。このようなことは、昔からこの地域に住んでいる農家の人しか知りません。2年・3年生が地域学習をします。このような地域の成り立ちや特徴は、地域の大人から学ぶことによって分かります。
 福祉体験や職場体験、環境教育なども地域でしかできない学習です。この地域で学ぶ学習を通して、子どもたちは地域の大人を将来のモデル像として捉えます。不知火小学校の子どもたちが、地域の大人との学習の後で「僕は大きくなったら大工さんになりたい」と言ったとが報告がありました。益城町の広安小学校の子どものお礼の手紙の中に、「仕事ではないのに、雨が降る日も、風の日も、暑い日も、朝早くから私たちが安心して登校できるように登校指導してくださいます。ありがとうございます。私も大きくなったら人の役に立つボランティア活動をしたいです」がありました。子ども達は、地域の良さを実感し、この地域に生まれ育って良かったと実感すると思います。 

 学習指導要領では子どもたちの「生きる力」の育成が重要視されています。
 大阪大学教授志水宏吉先生が「学力の樹」で示しておられます、「樹の葉」つまり基礎的な知識及び技能、「樹の幹」つまり課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力、「樹の根」つまり意欲・感心・態度を学力の三要素として、いわゆる「確かな学力」を育むことを目指しています。また、生きる力を育むため、指導計画作成に当たっては、地域や学校の実態等に応じて家庭や地域の人々の協力を得るなど、家庭や地域社会との連携を深めることと総則に示しています。

 子どもたちは、多様な人々との交わりの中で、社会性を育んでいきます。キャリア教育や福祉教育、環境教育などは、地域での多様な視点が取り入れられ、より豊かな学びができます。地域の大人からほめられることにより、やる気の向上など自尊感情が醸成されます。
 宇土小学校5年生の先生が社会科の農水産業の学習で、網田漁協と協働して、「のり養殖」について学習しています。のり養殖について学んだ後で、子どもたちから次のような声が上がったそうです。「のり養殖の技術が向上したこと、それに伴って生産量が増大したこと、その結果、収益も増えたことが分かりました。しかし、収入が以前より増えているのに何故後継者が不足しているのですか?」と。一般的には、先生が漁協の方からのり養殖について学んだことをもとに授業をされると思います。結果、養殖技術の向上や生産量の増大、収入の増加は子どもたちに理解させることができると思います。しかし、何故後継者が少ないのかという疑問を子どもたちに抱かせることはむずかしいと思います。子どもたちがこの疑問を持ったのは、改良普及員の方がのり養殖の課題を当事者として危機感を持って子どもたちに語りかけられたからだと思います。ここに地域の大人とチームを組んだ学習展開のよさがあると私は思います。専門性に触れ、本物から学ぶことのよさです。そして、地域の人々に支えられて学んでいくことで、地域への愛着や誇りが芽生えます。
 今年の8月に示されました「教育課程企画特別部会論点整理案」では、これからの子どもたちに求められる力として、「社会的・職業的に自立した人間として、郷土や我が国が育んできた伝統や文化に立脚した広い視野と深い知識を持ち、理想を実現しようとする高い志や意欲を持って、個性や能力を生かしながら、社会の激しい変化の中でも何が重要かを主体的に判断できる人間であること」「他者に対して自分の考え等を根拠とともに明確に説明しながら、対話や議論を通じて相手の考えを理解したり考え方を広げたりし、多様な人々と協働していくことができる人間であること」「社会の中で自ら問いを立て、解決方法を探索して計画を実行し、問題を解決に導き新たな価値を創造していくとともに新たな問題の発見・解決につなげていくことのできる人間であること」を挙げています。
 そして資質・能力の3要素として、「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」を示しています。まさにアクティブラーニングの考えであり、これらは、地域の人々と協働した学習によってより深められると思います。
 私は常々、「人は、家庭で育ち、学校で学び、地域で伸びる」と言っています。地域は、子どもたちが豊かに学び成長する場です。子どもたちの安心・安全を支える場です。大人の生きがいづくりと地域創生を推進する場です。将来の担い手を育成する役割をも担っています。ですから、学校では、地域での職場体験や福祉体験、保育体験等が地域の力を借りて行われているのです。
 ここ数年、地域の大人が学習指導に関わっている事例が増えてきました。学習指導に関わっている益城町のボランティアグループの人達は、子どもに対する声かけや支援の仕方を議論し、意見を出し合って互いに学び合っています。これが新たなつながりとなり、地域づくりに繫がっています。また、新興住宅地では、子どもを介して大人が交流し合っています。千葉県習志野市の秋津小学校では「子縁による地域づくり」が行われています。また、「学縁」という言葉も聞くようになりました。

 地域とともにある学校づくりの魅力を、中央教育審議会学校地域協働部会で、「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について」(案)で次のように述べています。
 先ずは、子どもにとっての魅力です。
・学校に多様な人々が関わっていくことで、多くの大人の専門性や地域の力を生かした教育活動等が実施され、学校での学びがより豊かに、広がりをもったものとなり、子どもの学びが充実する。
・信頼できる大人と多くの関わりを持ち、愛情を注がれることにより、自己肯定感や他人を思いやる心など豊かな心が育まれる。
 益城町の放課後子ども教室での出来事です。3年生の子どもがボランティア指導員に、「私はクラスで仲間外しにあっています。きついです」と訴えました。指導員の方は、「きつかねー。だけど、泣いたり学校を休んだりしたらだめよ。担任の先生に話して解決してもらいなさい」と子どもに返したと私に話されました。子ども教室でそろばんを教えてもらっている指導員に心を開いて相談しています。指導員の助言を受けて、担任の先生とも相談しています。後日、その子のお母さんから電話がありました。「皆さんの支えで娘は学校を休まずに登校できました。先生の指導で仲間外しの問題は解決しました。ありがとうございました」と。
・地域の人々に支えられ学んでいくことで、地域への愛着が芽生え、地域の担い手としての自覚が育まれる。
・防災・防犯等の観点からも、平素からの学校と地域の人々との関係づくりが、子どもたちの命や安全を守ることにつながる。
 天草市の倉岳町では、幼稚園・保育園・小学校・中学校・高校が合同で避難訓練を行っています。津波からの避難です。中学生・高校生が保育園児や幼稚園児の手を引いたりおんぶしたりして高台に避難したそうです。来年からは、地域にも呼びかけたいと校長先生は言っておられました。
 次は、先生方にとっての魅力です。
・(特に管理職にとって)自ら定めた学校運営の基本方針の承認等を通じ、地域の人々や保護者の理解・協力を得た風通しのよい学校運営が実現する。
・地域の人々や保護者が学校の状況を理解し賛同してくれているという後押しを得られることで、安心して仕事ができる環境が得られる。
・相互理解に努め、ともに成功体験を重ねるなど信頼関係を構築していくことで、地域の人々が学校の応援団となってくれている実感が得られる。
 昨日(12月13日)、益城町の益城中央小学校では「中央小フェスタ」、広安小学校では「広安小フェスタ」が催されました。午前は、子どもたちの学習発表会です。午後は、昔遊びや郷土料理、竹細工や門松づくりなど地域の大人が指導者となった体験活動やふれあい活動がありました。私もコマ回しで子どもたちと興じました。ちょんかけごまの回し方などを見せました。たくさんの地域の方の協力で昔遊びなどが体験できています。忙しくて当日協力できない農家の方からは、「忙しくて協力はできない。野菜なっと食べて」と豚汁の野菜を寄贈される方もいらっしゃると聞きました。また、「身体を使っての協力はできないので、ぞうきんを縫った。使って」と寄贈される方もいらっしゃいます。
・地域の人々との交わりで得られる多様な経験を通じ、教師としての意欲が高まり、豊かな指導力の発揮につながる。
 上天草市の姫戸小学校の校長先生は次のように話されました。授業づくりで職員が地域の人と打ち合わせする時、「地域の人は忙しいので、短時間で済ませるように」と言いますが、1時間以上になることがよくあります。「先生方がこのように子ども一人ひとりのことを考えて、きめ細かな計画で授業されるので子どもたちは勉強が分かるのですね。先生方のご苦労がよく分かりました。感謝します。先生方がこのように研究して授業されていることを地域の人にも伝えます」と言われ、私たちの仕事が評価され、やりがいがあると職員は感じています。職員も地域の人も忙しさより授業の中身づくりを大切にしています。地域からも保護者からも評価され、自信を持って授業できることは職員にも子どもたちにも大きな力となりますと。
・教育や子どもの成長に対する責任を分かち合い、学校がやるべきこと、家庭がやるべきこと、地域がやるべきことの役割分担が図られることで、教職員が子どもと向き合う時間の確保につながる。
 地域の寺子屋学習支援ボランティアチームと担任の先生が協働してドリル学習に取り組む甲佐小学校での授業を参観したことがあります。授業の初めに先生が授業の流れを説明されました。子どもたちは各自がドリル学習に取り組み、大学生に○付けをしてもらいます。答えの出し方が分からない子は、「どうしてそうなるの?」と大学生に尋ねています。学生は丁寧に教えています。1時間の授業中、担任の先生は一人の子にかかりっきりでした。授業が終わって、担任の先生とマンツーマンで学習した子も大学生に○付けをしてもらった子達も先生も、大学生も、皆満足げな顔をしていました。これが学習支援のよさですね。
 保護者にとっての魅力は、次のようなことです。
・学校への関わりを通して学校や地域への理解が深まることで、子どもが地域の中で育てられているとの安心感が生まれる。
・保護者が学校に関わっていくことで、保護者同士のつながりや地域の人々とのつながりが生まれる。
 地域の人にとっての魅力です。
・学校運営や教育活動等への参画を通じ、子どもたちと触れ合い、これまで学び培ってきたことを生かす機会が得られることで、自己有用感や生きがいにつながる。
 地域の人々にとっての魅力は、先ほどの宇城市のコーディネーターのお二人の発表の中にたくさんありました。「子どもの元気な顔を見ているとこちらが元気をもらいます」「子どもが分かった時はこちらまでうれしくなります」など。益城町の学習支援ボランティアの方の言葉です。80代の方です。「この年になって学校(社会)のために役立っていると思うととてもうれしい」
・学校運営や教育活動等への参画を通じ、地域の人々が集うことで、学校が、社会的なつながりが得られる場となり、地域のよりどころとなる。
・地域のネットワークが形成されることで、地域づくりの輪が広がっていく。
・学校を中心につながった絆は、地域の力を高め、地域の人々に安心と生きがいを与える。
・防災・防犯等の観点からも、平素からの学校と地域の人々との関係づくりが、地域の安全を守ることにつながる。
 これから少し具体的な事例を紹介します。
 地域の人と協働した学習の良さは、本物に触れ、体験し、交流することによって子どもたちの豊かな学びを創造することにあると思います。地域の大人との学習によって子どもたちは、確かな学力や豊かな心、規範意識、自尊感情等を確実に育んでいます。
 今の子どもたちは、疑似体験が多いです。疑似体験を通して理解したように思っているところがあります。例えば、テレビでイヌが走っている様子を見て、イヌを理解したように思うのは危険です。犬のことを理解するとは、心臓の鼓動、臭い、体温、息づかい、手触り等を自分の5感を通して分かることだと思います。これはテレビ画面からは得られません。本物に触れる、直接体験することのよさはここにあると思います。
 道徳の授業などで、地域の人に講話を頼まれることがあると思います。いろんな理由から直接子どもたちに語りかけることができない場合は別ですが、できるだけ、直接講話を聞く機会を作ってください。ビデオレターなど画面を見て聞くのと、その場で直接聞くのでは、子どもたちの受ける感動は格段に違います。
 先生方の学校でも放課後子ども教室が開かれていると思います。放課後子ども教室では、宿題などの教科学習、昔遊びやものづくり、野菜づくりなどの体験活動、地域の方とのふれあい活動、読み聞かせや読書、そろばん学習などが行われています。甲佐町の乙女小学校の子ども教室で、昨年12月、「くまモン先生と一緒に干し柿を作ろう」で、1年生から6年生までの子どもたちが柿の皮むきをしました。20cmくらいの菜切り包丁で皮をむいています。1年生もですよ。参観者はけがしないだろうかと心配しましたが、けがすることなく皮をむいていました。子ども教室の指導者の方は、日頃から小刀などを使わせていてけがをさせない自信があったのでしょう。また、皮むきの前には丁寧な説明があり、けがをさせない配慮もありました。このように教科の授業では体験できないことが放課後子ども教室では行われています。 
 地域と協働した教育活動はどこの学校でも行われています。そこに示していますような、登校指導、学習支援、体験活動支援、教師支援、環境整備支援などが行われています。
 学習支援では、読み聞かせ、○付け、傾聴、郷土学習、習字、そろばん、調理、裁縫、講話、外国語活動支援、クラブ活動指導等いろんな支援が行われています。
 どこの学校でも、朝自習や行間の時間にPTAや読書グループによる読み聞かせがあっています。しかし、読み聞かせる選本はほとんどが読み聞かせる人にお任せです。そんな中、例えば、道徳の副読本「熊本の心」の中から読み聞かせの題材を選んで欲しいとお願いしている学校もあります。「熊本の心」にある題材全てが授業で取り上げられるとは限りません。授業では扱わない題材を読み聞かせで読んでもらうのはとても意義があると思います。
 調理やミシン縫い、習字やそろばん学習など技術を要する指導は多数のボランティアに支援してもらうと効果的です。益城町では、習字やそろばん学習では、8人ばかりのボランティアが支援します。一人一人にきめ細かな支援ができます。
 「傾聴」と言うことを少し説明します。これは、益城中央小学校での学習支援方法の一つです。学習支援ボランティアの方に、あらかじめ、「よく聞いてください」「ほめてください」「一つでもいいので尋ねてください」の3つをお願いしてあります。4・5人グループに一人傾聴ボランティアがつきます。例えば、国語の作文の学習では、子ども達は自分が書いた作文を、ボランティアに聞いてもらいます。作文を聞いたボランティアは、「楽しかったと言いましたが、何が楽しかったの?」とか「いつ、どこで、何をして、遊んだの?」などと尋ねます。子どもは尋ねられたことを作文用紙にメモして、自席でメモに応える文を挿入していきます。つまり、作文の推敲を地域の人と一緒にするのです。表現力が高まったと先生方は言われます。また、6年算数の「拡大図をかこう」という学習で、ボランティアに自分の考えを聞いてもらい、数学的思考力を深める学習をしています。例えば、「底辺の長さを2倍して10cmの直線をかき、斜めの線も2倍して、直線の両端からコンパスで、6cmと8cmの長さが交わる点と底辺の両端と結び、拡大図をかきました。」と説明します。ボランティアは、「角度は測ってみたの?」とか「かきかたは他にないの?」などと尋ねます。子どもたちはその問いに応えていくのです。思考力はもちろんですが言語活動が活発に行われます。この傾聴は、工夫によっては、小学校でも中学校でも、低学年でも高学年でも、どの教科においても活用できると思います。先生方、始めてみませんか。
 小学校では、クラブ活動の指導を地域の大人にお願いしている学校が増えてきました。私もちょんかけごまクラブに関わっています。竹細工クラブの指導をしている人は、箸や竹トンボを事前に作りながら「ここはこう教えた方が作りやすいばい」「ここを作るときはけがしないように気をつけさせよう」などと研究してクラブ活動の指導に臨んでおられます。ボランティア活動と学びが連動しています。
 中学校の職場体験は、子どもたちの希望を聞き、あらかじめ先生方が事業所と予備交渉をし、最終的に子どもが事業所と相談し、事業所を決めていると思いますが、ある校長先生は、「学校から体験事業所を依頼するのではなく、地域の事業所からうちで職場体験をさせて欲しい。地場産業のよさや後継者育成を目指したいから」との声が挙がるような学校と地域が一体となった職場体験にもっていきたいと言っておられます。まさに、地域とともにある学校づくりであり、教育と産業の一体化です。
 その他、農業体験、福祉体験、保育体験、歯磨き指導、フッ化物洗口支援、学校図書室環境整備、花壇づくり、除草、樹木剪定、通学路整備、清掃等あらゆる分野で地域と協働した教育活動が展開されています。
 また、今年度から地域未来塾が始まりました。これは、放課後や休業日等で子どもの学びを支援していくものです。

 親の学びプログラムについては、先ほど体験されましたので割愛します。

 コミュニティ・スクールについては、示しています図や表を後で御覧ください。

 コミュニティ・スクールと熊本版コミュニティ・スクールの違い

コミュニティ・スクール 熊本版コミュニティ・スクール
規則や要項等 市町村教育委員会が規則で定める 各学校が実態により要項等を作成
協 議 会 等 学校運営協議会(市町村教育委員会が設置) 仮称:学校地域づくり協議会等(各学校が実態により設置)
委    員
市町村教育委員会が任命(保護者及び地域住民等) 各学校が依頼(保護者及び地域住民等)
権限や役割等 ①校長の運営方針の承認
②学校運営に関する意見
③教職員の任用に関する意見
①学校運営方針の周知と共有
②学校の課題や情報等の共有
③課題解決に向けた協議

 終わりに、地域の大人の学びの場づくりについてお話しします。冒頭、地域とともにある学校は、「教育の分野からの地域創生」と申しましたが、学校は地域からの支援・応援を求めるだけでなく、学校が地域の活性化や地域づくりを応援する動きが出て来ています。これを双方向の関係とか、「ウイン・ウインの関係」と言っています。網津小学校では、「盲導犬と暮らしている人の生き方に学ぼう」の学習を保護者、地域の大人にも呼びかけ、子どもと地域の大人が一緒に話を聞き、地域の大人から「盲導犬と暮らしている方の様子がよく分かった。傷害のある方への声かけや支援の仕方の参考になった」という声があったそうです。御船町の七滝中央小学校では、県立美術館の巡回展で、浜田知明の版画鑑賞を子どもたちばかりでなく地域の大人にも案内し、たくさんの人が鑑賞したそうです。天草市の島子小学校では、認知症サポート事業の学習を地域の大人も一緒に学習したそうです。地域の大人から「自分の家にも認知症気味の家族がいる。どう対応したらよいかが分かった。これからもこのような勉強があるときは、私たちも一緒に勉強させて欲しい」との声があったそうです。御所浦小学校では授業参観時に、参観の栞が廊下に置いてありました。先生方も授業参観では、本時の目当て、学習の流れなどを書いたものを廊下に置いておられるでしょう。その栞の最下段に「一緒に学んでみませんか」という一文を加えていただくことによって保護者や地域の人は、参観者から参加者、そして学習者へと意識が変わると思います。授業参観の在り方を少し工夫されませんか。私はこれを「義務教育版公開講座」と言っています。地域の大人へ学びの場を提供して欲しいと思います。
 これまで述べてきましたように、「開かれた学校づくり」から「地域とともにある学校づくり」へ、さらに「学校を核とした地域づくりへ」と動いています。「支援・応援」から「パートナーシップへ」と進んでいます。
 「地域を活かす」「地域を学ぶ」「地域と学ぶ」「地域に還元する」の4つの視点から地域とともにある学校づくりをさらに進められることを祈念して話を終わります。ご静聴ありがとうございました。